鋏は身近で簡単な刃物ですが、その外見に似合わない高度な精密機械です。
このページでは、洋裁鋏をはじめとする鋏の取り扱い方法について説明しています。
異種金属が直接および電解質を隔てて接触するとき、二つの金属の溶けやすさが異なると、溶けやすいほうがプラスの電気をもって溶け出し、あまった電子がもう一方の金属に供給されることによって電流が流れる。(電池)
こうして一方の金属が腐蝕されてしまう現象を電蝕という。
鋏を使用した後は必ず、汚れをよく落としミシン油のような潤滑油をさしておきましょう。
一般に鋼(鉄と炭素の合金)は、塩や酸・アルカリのような電解質を含む水に触れるときわめて錆びやすくなります。手の汗など塩分が残った状態で湿度のあるところに保管すると錆びてしまいます。鋏にとって錆は以下に説明するように致命傷ともなりかねません。
酸化鉄(Ⅱ,Ⅲ)(Fe3O4)は酸化第二鉄、IUPAC命名法では三酸化二鉄と呼ばれ、緻密で強固な被膜となり内部の腐食を防止する。一方の赤錆は酸化鉄(Ⅲ) (Fe2O3) は酸化第二鉄、IUPAC命名法では三酸化二鉄と呼ばれるもので、多孔質で内部を保護しない。
鉄の表面がいわゆる黒錆で覆われていると、それが内部を保護して全体が錆びることはありません。鉄を錆びさせないためには、錆を落とすのではなくしっかりした黒錆を表面に形成させる必要があります。
ところが、鉄の黒錆は、クロームやアルミの表面にできる強固な酸化膜と異なり、薄くて取れやすいものです。大事にしましょう。
そのためには、塩や酸などの電解質が溶けた水に接触させないこと。人の汗は禁物です。洋裁バサミのように普段から刃の部分は直接手で触れないようにすることが肝要です。汗や塩分がついた可能性があれば、精製水で洗って乾燥させ油を塗布しておく必要があります。
ミシン油をしみこませた柔らかい布でくるんで、使い終わったら刃全体をつかってこの布を切り、全体をぬぐって、くるんでしまうのが良いでしょう。
なぜ切れるかを説明してから、簡単に研ぎ方を説明します。しかし、鋏は極めて精巧につくられた精密機械という側面もあるので、しくみを知っているから研げるというわけではないので、できればプロに依頼することを強く推奨します。
以下でも説明するように、本来の使い方・用途と異なる場合は、必ず切る素材と使用方法を具体的に提示してください。当社では、岩国という地域柄で、カーボンファイバー、超高重合ポリエチレン、グラスファイバー、アラミド繊維、ゴム、チリメン、スチールウール、低密度ポリエチレンなどの様々な素材を切断する刃物の相談に対応してきた実績があります。
逆説的に言うと、実際の使用状況を詳しく教えていただかないと対応ができません。
代表的な、そして全く異なるしくみの二つの鋏について簡単に説明します。
洋裁鋏の刃は刃全体が内側に反る(赤い線)と同時に刃自体も内側がえぐられ(青い線)て、布を切断する部分は1点のみが強く接触するように作られています。
内側に剃る角度もシャフトより遠ざかるにつれて微妙にカーブを変えてあります。さらに、できるだけ二つの刃が織り成す角度が一定になるように刃線もカーブしています。(このカーブは長太郎型は特に顕著です。)
洋裁バサミは文字通り「断ち切る」鋏ですから、柔らかくて薄い素材を切るのに最適な形をしています。刃先の角度とそらす角度、二つの刃の接する角度、材質によって絹から鉄板まで対応できます。
剪定鋏は洋裁バサミの対極にある鋏で、こちらは文字通り「ナイフで切断する」方法で、残酷なたとえですがギロチンと同じ仕組みです。
この種類の鋏は基本的に反りはないかあってもわずかです。受け刃で支えた素材を薄くて鋭利な刃で切り裂くようになっています。
この鋏は、太くて材質的には柔らかいもの(全体としては固くなくてはならない)に適しています。生の木の枝や銅や鉛、あるいはポリエチレンなどにも使えます。
鋏が切れなくなる。あるいは切れないときは、ここで説明した鋏が切れる理由を妨げる物があるからですから、それを直すことが鋏の研ぎ・修理になります。
基本的に二枚の刃が擦れ合う部分(ウラ)は研がない方が良いでしょう。そこを研ぐためには特殊な砥石と技術が必要です。また、刃先を研いでも切れないときは刃の反りやシャフト部分の調整が必要な場合もありますからプロに依頼してください。