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5;ブーメランの物理学
「なぜブーメランはこのような不思議な飛行をするのでしょうか?」
《翼の形状》 なぜ飛ぶのか−飛行機の翼とブーメラン−揚力,抗力,失速
ブーメランの翼の形は、旧式の飛行機の翼とそっくりです。底面がほぼ平らで、背面はわずかにふくらんだ曲面となっています。
このような物体の周囲を気体や液体が通過する場合、どのような力が生じるでしょうか?。
流れる物質を取り扱う場合、これを流体と言い、理解を助けるため流線と言うものを考えます。これは水の流れの中に一定の間隔を取って墨を流したり、空気の流れに煙をなびかせている状態です。
流体の中に円柱形の障害物を置いてみましょう。
流れている物質は障害物を避けて流れなければなりません。流れが遅いうちは、流線はきれいに並んで流れています。−層流と言う状態
流れをだんだんと速くなると、渦は乱雑になります。 −乱流−
いきなり乱流になるのではなく、渦が交互に現れる現象が観察できますが、本題とは関係ないので省きます。
次に流れの中に、断面が変化する板状の物体をいれた場合を考えてみます。最初に物体を流れに平行に入れてみます。
もちろん、流体は物体をよけて流れます。
この状態で板の一方-上面-を少しずつ膨らませていきます、すると流体の流れる“みちのり(道程)"は長くなります。長くなると、そこを流れる流体の速度-流速-が速くなります。流速が大きくなればなるほど圧力が減少します。−−ベルヌーイの定理
この板の上面は下面にくらべ圧力が減少するため板は上に力を受けます。この力を揚力と言い、これがブーメランを持ち上げる力となっています。
さて、次は流れをどんどん速くするか、迎え角を増していきます。すると圧力差はどんどん大きくなりますが、やがて流れが翼の表面からはがれてしまいます。これを失速と言います。失速状態になると、揚力が急激に低下して、抗力(流れの抵抗)が急激に増大してしまいます。
失速状態になると、ブーメランは揚力を失い、また強い抗力のため回転も停止して墜落します。
《もうひとつの揚力の説明》
ジェット戦闘機や紙飛行機−飛行機の両極端です−の翼は極めて薄くできています。これらの翼の揚力は空気の流れる向きを変えることにより、その反力が揚力になっています。ジェット機は空気抵抗を減らすため、紙飛行機は材料の制約で似た形になりました。ブーメラン−特に紙製の場合−の揚力の一部はこの反力によるものが含まれます。
−回転体に力を加えた場合の首振り運動
さて、ブーメランはなぜ旋回して元の位置に帰って来るのでしょうか。
ブーメランは、最初にはほとんど垂直な状態で回転しています。すなわち、ブーメランの揚力の大部分が旋回のために使われ、残りがブーメランを空中に支えています。この飛行しているブーメランを上から眺めて見ましょう。ブーメランが左に飛行経路を変えただけでは【左側の図】のようにブーメランの空気に対する迎え角は負になって揚力が失われてしまうはずですが、実際にはブーメランはコースを変えるだけでなく常に十分な揚力が得られるよう、【図】のように回転軸を左に変えていきます。視点を変えて、ブーメランの飛行コースの中心から眺めてみましょう。
ブーメランが回転しながら飛行している場合、重心から上の翼は飛行速度に回転が加わり、翼の表面の風速は速く、下部の翼は遅くなります。そのためいつも上部の翼の揚力が大きいはずです。そのため、ブーメランの回転面は左倒しなり、ブーメランを持ち上げる上向き揚力成分も徐々に減少し、悲劇的な結末を迎えるはずです。ところが実際のブーメランは、地面に激突せずに左旋回を始めて無事に投げ手まで帰って来ます。
ブーメランのように回転している−角運動量を持つ−
物体に力を加えると、その物体の運動はどのように変化するのでしょう。
回転している物体は、たとえ重心が移動していなくても、角運動量と言う形の運動エネルギーを持っています。よく野球で、体格のいいピッチャーのボールは、軽いピッチャーのボールよりも、速度が同じでも“重い"と言われるのもこのためでしょう。
「ボールの持つ運動エネルギーは、(質量)×(速度)だから、この2つの変数が同じだから、同速度のボールの持つ運動エネルギーは変わらない」という答えは間違っています。
同じ、速度でも回転数の多い球は、回転数の少ない物より大きなエネルギーをもっ
ています。そのため、バットに当たっても同じようにははじき返されないのです。
机の上でできる簡単な実験をしてみましょう。
【実験1】
硬貨を机の上に立ててから、硬貨の上端を指先で横へ軽く押してみましょう。
今度は硬貨を手前から向こうへ転がしてみましょう。転がっている硬貨の上端を同じように指先で左へ軽く押してみましょう。
ちょっと難しいですが、今度は転がっているコインの上端を進行方向に向かって押してみましょう。
この現象はコイン以外に次のような事例で体験できます。走行している自転車やオートバイの向きを変える場合、単にハンドルを切っただけでは向きは変わらず倒れてしまいます。ところが、自転車やオートバイを傾けるとスムーズに曲がれます。
また地球ゴマ−ジャイロゴマを回転方向を図のような向きにして、足を糸で吊るすとコマは回転軸を左に回転させながら落ちずに回転を続けます。
なぜ、回転している物体はそれを倒そうとしても、すなおに倒れないで、向きを交えて回り続けたり、回転軸を回そうとすると、とんでもない方向へ首を振るのでしょう。どうも《回転している物体には奇妙な性質があるようです。》
回転して入る物体は角運動量(エネルギー)という運動エネルギーを持っています。
この角運動量を表すためベクトルという考え方をします、このベクトルも他の運動量と同じように矢印で表すことにします。
ベクトル
運動量の場合は、大きさと方向の二つの要素があります。このように複数の量で表される量をベクトルといいます。
たとえば、ある生徒の科目毎の成績(数学何点、国語何点、英語何点と言うふうに‥‥)や、物体を水平面から45°の方向にどれだけの速度で投げ上げたとか、これに対し、大きさだけのように一つの量で表す物をスカラー量と言います。質量や体積などがそれに当たります。
角運動量の大きさは長さで、向きは矢印の方向でそれぞれを表すこととします。便宜上、回転運動のベクトルの向きは右手を握って親指を立てた状態(じゃんけんのグーから親指を立てた形)で覚えてください。親指以外の指の向きが回転方向を表します。そして親指の向いた方向が角運動量ベクトルの方向とします。
このベクトルを使って角運動量の変化について考えましょう。
ある物体に力を加えると物体(質量をもつ物)は運動を始めます。ところが実際の物体は大きさを持っています、そのため力を重心に加えれば質点への力と同じに考えられますが、重心から離れた位置に力を加えると物体は移動と同時に回転を始めます。右図のビリヤードの球のように、力を加えたときの角運動量の変化を知りたいときは、右手の親指、人差し指、中指をそれぞれ直角にのばしてみます。そして、人差し指が中心から作用点への方向、中指が加えられた力の方向、親指がその角運動量ベクトルの変化する方向を表わすと覚えてください。
加えられたベクトルは元のベクトルに直角なため元のベクトルの大きさは変えずに、その向きだけを変えます。
そのため先の実験Bの場合、コインは向きを変えただけで転がり続けます。
また実験Cの場合は、新しいベクトルは元のベクトルと同じ方向ですから、コインはスピードを上げて転がって行きます。
これは自分で確かめてください。
実際は、安定するまでしばらくフラフラしたり、グルグルと一カ所で旋回してやがて倒れたりと、コインはもっと複雑な動きをします。その運動の解析はここではしませんので、自分で考えて見てください。
これをブーメランにあてはめて見ましょう。
飛行中のブーメランは大きく左に傾いているため、その揚力の大部分を占める水平成分はブーメランを左旋回させる力となり、垂直成分はブーメランを空中に支えています。そして上下の揚力の差がブーメランの回転面を左旋回させているわけです。(指で確認してみてください。)
ところがこれですべての疑問が解決された訳ではありません。